マイムマイム

 今は金曜日の夕方、いつものように2階の書斎の窓から空を眺めている。まだ空は西日がまぶしく夕方とは思えないほどの明るさで、マンションや近所の家々の屋根が照らされている。そうか、そういえば6月21日の日曜日が夏至だから、昼間のような日差しは当然である。この暑い昼間に、先ほど小さなジョギングをして帰ってきた。何か無性に体を動かしたくなって、ゆっくりとした足取りながら45分間、西の方角に向かって走って戻ってきた。とは言っても年寄りのことなので、気恥ずかしいような走りだが、それでも自分の体に多少の負荷をかけないと、運動をした気にならない。この暑さだと汗をいっぱいかくので冷水が美味しい。そして今書斎でコーヒーを飲んでいる。

 さて今週は何か印象深かったことはあるかと、振り返った。今週は4日間午前中ずっと市内の学校訪問をした。水曜日に、ある中学校に行ったら1限目は体育の時間だった。指導案が用意されていて、フォークダンスの単元と書いてあった。指導主事と教頭と私の3人で授業参観をした。フォークダンスの基礎練習なのだが、初めての参観だった。はじめは5、6人のグループが数珠つなぎになって、先頭のリーダーが手を振ったり足をあげたりしながら歩くのだが、後ろのグループはそれと同じ動作をするのだ。なんだそんなことかと思っていたが、生徒たち全員が嬉しそうに歩いている、いやダンスをしている。言われてみれば、ダンスは全員が同じ動き方をするという当たり前のことに気がついた。そして同じ歩き方ができるだけで、妙に人は嬉しくなるのだ。たぶんそれは同じ動作をすることで、気持ちも共有化され連帯感が生まれるからだろう。

 次が、マイムマイムのフォークダンスの練習だった。自分も中学生の頃習った、あのダンスである。若い中学生が、男子生徒と女子生徒が手をつなぎ合って、円陣を組んでマイムマイムと言いながら踊っていた。昔聞き慣れたあの音楽が体育館に響いた。「マイム、マイム、マイム、マイム、マイム、ベッサッソン」の歌声が聞こえてきた。生徒たちはもちろん、先生も教育実習生もそして我々まで、マイムの音楽に揺り動かされた。それは身も心もすべて無条件にマイムの世界に入っていった。そして生徒たちは満面の笑顔を浮かべて、楽しそうに動いていた。彼らは今何の屈託もない幸せの瞬間を生きているのだ。中学生時代とはこのような時代なのかと、ふと思った。

 先生が、マイムとは水のことだと説明された。帰宅してネットで調べたら、イスラエル民謡でマイムはヘブライ語だそうだ。中東地域は、かなりの面積が砂漠である。水は貴重であり、開拓しながら生活をする人たちが、湧き上がる水を見つけた時の喜びの歌が、マイムマイムである。「水だ、水だ、素晴らしい水を見つけた」と男も女も老いも若きも、嬉しくて嬉しくてその喜びを歌にして踊りにして喜びを分かち合ったのだ。このフォークソングに含まれる人々の水を得た喜びが、私たちに伝わってくるのだろう。多感な中学生も、歌いながら踊りながらその喜びを感じただろう。中東で暮らす人々の生活は厳しい。その苦しさの中に、宝石のような水を見つけて喜びを分かち合ったのだ。中学生もやがて大人になり仕事をするようになれば、中東の人々と同じように、喜びと苦しさを味わうだろう。

 文脈は逸れるが、新聞に「理科室のにおいを愛した少年は化学会社で定年むかえ(中路修平)の句があった。たぶんその少年はこの句の作者だろう。中学生の頃この少年は理科が大好きだった。念願叶って好きな仕事ができて、今定年を迎えた。私が見学した中学校の生徒たちも、そんな人生を送ってほしい。しかしこの句の作者も平坦な道だけではなかったはずで、山あり谷ありの道を乗り越えてきただろう。マイムマイムはイスラエル民謡である。イスラエルは今、戦争をしている。イスラエルもイランもガザも関係ないのだ。人が人を殺し合う必要はどこにあるのか。砂漠で水を見つけた喜びは、イスラエルもガザも関係ない。どの国でも、幼子が若者になり、そして大人になって笑顔で生活できるような社会になってもらいたいと願っている。それが叶わぬ夢とは知りながら、子どものような願いと知りながら、マイムマイムを踊る中学生たちが、そのまま笑顔で生きられる人生であってほしい。

投稿者: 赤堀侃司

赤堀侃司(あかほりかんじ)現在、(一社)ICT CONNECT 21名誉会長、東京工業大学名誉教授、工学博士など。専門は、教育工学。

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