不安と緊張

 今は9月18日金曜日の夕方なので、ブログを書く時間になってきた。いつものように南向きの窓から空を見ると、久しぶりに青空と白い雲が見える。秋らしい天気で少し心が晴れ晴れとしてきた。例年にない長雨で、いくつかのイベントも中止になったり、災害が起きて人々の困った表情がテレビ報道から伝えられている。昨年は9月はまだ夏真っ盛りで、日本は二季になったのかと言われるほどだったが、今年はもうすっかり秋の気候で、今日も23度程度の過ごしやすい一日だった。しかしまた明日から台風の影響で雨降りが続くという。人の思い通りにはいかないのが世の常である。

 一週間を振り返ってみる。平凡な生活だが、なぜか気ぜわしく、どこか不安なところがある。9月は学校では2学期の始まりの月のせいか、いろいろな行事が重なっている。学会の大会や学校訪問などの自分の仕事もあったが、やはり気になるのは身の回りのことである。家内が10月に手術をして入院する関係上、昨日も今日も病院に連れて行った。昨日はいろいろな検査があって、異常が見つかると手術が延期になるか、できないので重要な一日であった。家内は数週間前からそれが気になって、不安だった。膝の病気とどう関係するのかわからないが、乳癌の検査などもあったようで、もし癌の疑いがあるとしたらどうしようと、傍目から見ても落ち込んでいた。我が家だけでなく、どの家庭でも同じだろうと思う。

 一昨日、担当医の先生から2日にわたって検査してもらった結果を聞いた。全て異常なしの言葉を聞いたとき、本当に助かったと思った。長い間続いた雨降りが今日のように青空が見える秋晴れと同じで、目の前の靄がきれいに晴れたのだ。そして今日は市内の大学病院に手術の関連で出かけた。しかしこれから大一番が待っている。前日に準備をして入院をし、翌日手術を行い、2週間ほど入院する。手術が成功しリハビリができるようになれば、そしてリハビリの効果が出てきて膝の痛みが薄らいでくれば、などと期待ばかりしている。しかし人はなぜか良い方向よりも、悪いことを予感しながら不安になっていく。

 実は私もその通りなのだ。このブログで書いたようにアマゾン出版をするときは、不安と緊張だらけであった。今日になってようやくそこから離れることができた。そしてまた次のことが心配になっている。明後日成田からハノイに飛び立つ。翌日ハノイの大学で講演をしなければならない。それが今から緊張しているのだ。資料もすべて送って問題ないとは思いながら、不安でいっぱいである。それは2時間半の長時間のせいでもあるが、本当にできるのだろうかと思ってしまう。数日前にスタッフと雑談していた時に、ふと口にしたら「それはいいね、私も行きたい」などと気楽なことを言った。実はそうではないのだ、できるものなら誰かに代わってもらいたいぐらいの気持ちである。本音を言うと、自分は人前で話すのが苦手で、仕事柄そうもいかないのが世の常である。だから不安になったり緊張したりするのだろう。

 海外出張したり国内の学会が続いたり、いろいろな行事があるので、今日は床屋に行った。床屋には江戸の昔から人が集まるので、主人は雑学の専門家である。床屋の職人は認知症にならないと言っていた。まず手を動かす、お客の関心のある話をする、そのために新聞などの情報を取り入れる、収入と支出を計算して経営をする、考えてみれば、手を動かし頭を使う仕事なので、認知症にはならないらしい。しかし一番面白かった話は、カミソリなどの刃物を使うので緊張することであった。認知症とは、何も緊張しないことなのだ。何も考えず何も苦労しないことは、気遣いする必要もない。つまり脳に何の負担もない状態が続くと、認知症になると言う。人に会うだけでも、人は緊張する。有名な舞台俳優は、いくつになっても舞台に上がる時に緊張と不安で震えるほどだと言っていた。ハノイの大学では生成AIと教育の話をするが、その中で認知的オフローディングにも触れる。オフローディングとは頭に負荷をかけないことで、生成AIにすべて任せて、自分の頭に負荷をかけなければ徐々に認知症になるだろう。

 文脈は遠く離れるが、新聞に「昼過ぎの進路指導室の壁にボートの揺れのような秋の陽」(常田瑛子)の句があった。中学校なのか高等学校なのかわからないが、先生と生徒が進路について相談をするのだろう。そこに秋の日差しが差し込んできて、風で揺れる木漏れ日のように、波で揺れるボートのように、壁に当たった日光が動いている。その様子は、どこか不安げで緊張している生徒の心を映し出しているようである。誰も同じなのだ。どんな人も不安と緊張で物事に臨むのだ。適度な不安と緊張は人が生きていく上で、大切なことなのだ。そしてそれが自然な生き方である。そして一つずつ終わっていけば、生を全うできる。

 

 

 

投稿者: 赤堀侃司

赤堀侃司(あかほりかんじ)現在、(一社)ICT CONNECT 21名誉会長、東京工業大学名誉教授、工学博士など。専門は、教育工学。

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