秋を感じる頃

朝も夕も涼しくなって、夜には鈴虫が鳴いている。鈴虫の鳴き声は、心を和ませるような優しさがあって、季節を感じる。昼間はまだ気温は高いが、空を見れば、うろこ雲や、すじ雲のような、もくもくとした形容ではなく、刷毛でこすったような、手でちぎったような雲が多くなり、秋を感じさせる。今年は、前半の長雨で、毎日雨ばかりでいつ青空が見えるのだろうか、と思っていたら、急に気温が上昇して、灼熱の夏になったので、いつまで暑さが続くのかと思っていたら、朝夕はめっきり秋らしくなった。自然は、人に季節という贈り物をすることを忘れてはいないようで、私たちは、自然と対話しながら暮らしている。NHKの日曜日朝の番組、小さな旅が好きで、音楽も素晴らしいが、日本の自然やそこで暮らす人々の人情に、心が動かされる。つい最近、大分県日田市の陶磁器村が紹介された。その村では、川の水を利用した水車で、その地域の土を細かな土にして、ろくろで素朴な陶磁器を形をつくり、窯で焼いて出来上がるが、その作業は、文字通り職人芸であり、長年の修業が必要とされる。この道、何十年の職人が、自分が作っているのではない、自然が作る、と語っていたが、そうかもしれない。土も水も窯もすべて自然のものであり、人がしているのは、ほんの少しだけ手を加えただけなのだ。人が、自然と共生する考えは、日本人の思想であり、よく知られているように、合わせ、の文化として、欧米の、選び、の文化と対比される。年を経るにしたがって、人の心は原点に戻るようで、自然に合わせ、人に合わせ、地域に合わせる、生き方が馴染むようになる。自分の専門であるテクノロジーとの合わせは、少し別の文化なので、またの時に考察しよう。

投稿者: 赤堀侃司

赤堀侃司(あかほりかんじ)現在、(一社)ICT CONNECT 21会長、東京工業大学名誉教授、工学博士など。専門は、教育工学。

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