しじみ

今は土曜日の夕方、いつものように書斎の南向きの窓から外を見る。西日がマンションや近所の住宅の屋根を照らして、夕方とは思えないような明るい光景である。昨夜から午前中にかけてずっと小雨が降って、先ほどまで肌寒かった。いつものように土曜日の午後はスポーツジムに行って、健康の維持と気持ちの発散をして、元気を貰って帰ってくる。今日の天候の変化は対照的で、ジムに行く時は小雨交じりの曇り空で、ジムからの帰りは西日に顔面を照らされていたので、気持ちまで違ってくる。山本周五郎の原作で「雨あがる」の映画を思い出した。たしか浪人で仕官の道を探す夫婦の物語で最後は題名のようにハッピーエンドであった。小説や映画はともかく、ジムから帰ってきて、夏みかんのビタミンCを補給して、2階の書斎に上がってきたところである。夏みかんを食べながら、家内に夕食はと聞いたら、生姜焼きとカツオの刺身と野菜と味噌汁などと言う。カツオは旬のものなので美味しそうだ。自分は自宅で食事をするのが好きで、特に夕食は風呂上りなので子供のように楽しみにしている。老夫婦でたわいもない話をよくするが、家内は献立が自慢らしい。残っている食材を活用して、ネットで調べて料理を工夫しているらしい。自分は朝食も大好きで、もちろん味噌汁と納豆に加えて、南高梅の梅干し、青汁、白菜の漬け物、ヨーグルトとミルクなどを食している。梅干しは通販で買ってるせいかハチミツが入っていて、ことのほか美味しい。味噌汁は今が旬の浅利やしじみが入っており、磯の香りがしてこれも大好物である。時々ふりかけなども使ったり、炊き立ての時は卵かけご飯なども食べる。全体的に発酵食品が多く健康的である。昨日金曜日の新聞のローカル版に、背を丸め引き寄せ繋(つな)ぐ蜆(しじみ)舟(大橋松枝)の句があった。このようにしてあの小さなしじみを取っているのか、それが味噌汁の中に入っていると思うと、当たり前だがありがたいと思う。しじみを取る光景は、実は何年か前に島根県の宍道湖で見たことがある。自分の専門の学会が松江市であって、宍道湖の前のホテルに泊まった。正確にはホテルではなく旅館であった。この市ではホテルの数は限られており、自分は予約できなかったので、昔ながらの旅館に泊まった。小さな畳の部屋だったので旅館と呼ぶほうがふさわしい。2泊したが1日目は1人で夕食を取り、2日目は懇親会だった。1人の夕食はその旅館が経営している食堂だったが、確か自分1人だけだったような気がする。その時の味噌汁にしじみが入っていて美味であった。そして新鮮な魚で夕食をいただいて贅沢な食事だと思った。食堂の主人と話をしながらだったので、まるで映画の寅さんのような雰囲気だった。そして翌朝、2階の自分の部屋から窓を開けると、目の前が宍道湖だった。そこに小船が何艘か浮かんでいて、シジミを取っていた。それが朝靄の向こうに見えていて、まるで淡い色で描いた日本画のようだった。しじみの味噌汁を食べると、この時のことを思い出す。まるで幻想のような景色だった。自分は毎日健康的な朝食をいただき、ほろ酔い加減の一杯と旬の食材で幸せ感を味わう夕食で、食事は満足している。自分は手術の経験はなく、検査のために1日入院をしたことはあるが、大病もしたことはない。多分食事とスポーツジムのおかげだと思う。歳を取って思うことは、当たり前だが最も大切なのは健康である。美味しくいただき、体を動かし、そして適度な仕事があれば、それに勝るものはない。

投稿者: 赤堀侃司

赤堀侃司(あかほりかんじ)現在、(一社)ICT CONNECT 21会長、東京工業大学名誉教授、工学博士など。専門は、教育工学。

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