言葉

今は火曜日の夜と言っていいだろう、書斎の窓から見る空はもう真っ暗で、確かに冬の季節に入ったようだ。今日は寒くダウンのジャンバーを来て、外の仕事を済ませた。寝る時も暖房を入れているが、鼻や喉の調子がおかしいと思ったら、寝室がかなり乾燥していたことが原因だと思って、昨日から加湿器を備えた。書斎はかなり前から稼働しているのだが、あの白い蒸気が吹き出ているのを見ると、冬が来たんだと思う。大学にいた頃も研究室に加湿器を備えて仕事をしていたが、外の気温と研究室の中の温度差が大きいせいか、窓がすべて曇っていてそれが冬の訪れのお知らせのような気持ちがした。今日のような寒い日に、夜突然と尊敬する先生が研究室に来られて、研究やら仕事やらの話を雑談のようにされて出て行かれたことがある。帰られた後あれはどういう意味だったのだろうかと考えたが、よくわからなかった。偉い先生でも時々誰かと話をして、気持ちを発散したい時があるのかなどと、つまらぬ詮索をした。加湿器を見ると、ふとそんなことを思い出す。あの頃は研究に夢中だったのかもしれない、研究室には大学院生がたむろしていたので、そこで交わされる言葉も専門用語が多く、それが合言葉のような印象だった。デフォルトとかアカウントとかサーバーなどのコンピューター用語が多かった。研究室毎にサーバーを設置して管理していたからだろうが、日常的に交わされる用語を知らないと部外者か素人だとみなされた。今日の午後小さな雑誌に掲載するオンラインの対談があった。自分は初めは乗り気ではなかったが、話をしてるうちに相手方の熱意にほだされ相手の気持ちがストンと自分の胸に落ちた。先方はバリバリのIT技術者であり、専門的な知識は溢れるほどあって、自分と話が噛み合うか心配だった。話しているうちに、用語の裏に隠れている情熱が伝わってきて、まるでプロジェクトXかと思ったほどである。偉い先生との雑談の中にも、学生たちが交わす会話の中にも、技術者が話す専門用語の中にも、それぞれの世界の深さがある。その世界で生きてきた重みがある。新聞に、土の量リューベに話す作業着の工事現場の語彙にときめく(春木敦子)の句があった。リューベとは、立米と書いて1m³のことだとネットに書いてあった。門外漢の自分にも、工事現場で働く技術者たちのプライドと熱意が伝わってきて、男たちの話し声が聞こえてくるようだ。言葉とは、その世界が醸し出すかぐわしい香りがする花束である。

投稿者: 赤堀侃司

赤堀侃司(あかほりかんじ)現在、(一社)ICT CONNECT 21会長、東京工業大学名誉教授、工学博士など。専門は、教育工学。

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