からりと晴れた冬の季節は、空気が乾いている。そんな時には、車に触ると静電気が体の中を走る。そんな些細なことだが、どこか条件反射に似た学習をして、春になって湿度が高い時でも、車に触るのに怖さがあった。湿度が高ければ静電気は発生しない、空中に漏電するから、という科学的な知識は何も役に立たず、ただ子供のように恐れていたので、我ながら恥ずかしかった。コロナのお蔭で自宅勤務になると時間の余裕もあり、市内に買い物などで車で出かけることが多くなり、毎日のように車に乗っている内に、静電気のことを忘れてしまった。これも単純な条件反射の学習に過ぎないと分かっていても、ふと思った。車の静電気、あれは幻想だったのではないか、と。そんなことはないけれども、自分の脳が勝手に作り上げた幻想なのだ、と思った方が納得しやすい。思えば、この世のことは脳が作り出す幻想であり、幻聴なのかもしれない。秀吉が、浪花のことは夢のまた夢、と辞世の句を詠んだと言われるが、すべての出来事が幻想だったのではないか、と悟ったような気がする。自分の車は、ホンダNboxなので手で触れないと車のドアが開かない。あれは幻想だったかもしれないと思いながら、今日も運転するだろう。
